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『魚づくし』 著・別役 実
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安定期の別役節を堪能
さりげなさに潜む切れ味にしびれる |
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さて、この嘘書籍探訪では今までなるべく入手しやすい本について取り上げてきたが、今回はあえて手に入りにくい本を取り上げ、皆さんの渇望をあおってみたい。 さてさて、本日とりあげますのはご存知、別役実作「魚づくし」。 別役氏の「づくしシリーズ」でも「虫づくし」や「道具づくし」などは度々再販され、入手可能なのだが、この「魚づくし」だけは何故か再販されていない。一時は幻といわれた「鳥づくし」ですら平凡社から文庫が出たというのに。 しかしこれが大変面白い。面白いので速やかに書店に駆け込んで購入し、一読することをオススメする…といいたいところだが、あまり売っていないのだったこれはしたり。 「づくし」シリーズにもそれぞれ特色がある。最初の「虫づくし」はわかりやすい面白さに富み、「けものづくし」ではその獲得した手法をうまく展開してはいるもののやや二番煎じ感がぬぐえず、「鳥づくし」ではやや煮詰まったのか実験的な手法を試み、傑作から駄作までふり幅が大きい。 そんな中、1989年に出版されたこの「魚づくし」は、今までの手法のいいところを抽出され、いい感じで脂の抜けた良作揃いで非常にお買い得。 今すぐ書店に駆け込んで購入し…いや、あまり売ってないのだった。これはしたり。 個人的な好みでは「シーラカンス」がいい。論理的に展開されるこの章は、大嘘の前提ばかりで構成されている。魚類学の専門度は、研究の対象とする魚をどれだけ多く食べたかによって測られるという前提が大嘘なら、一流の魚類学者たる条件はシーラカンスを食べることであるという挿話も大嘘、シーラカンスはメスで、オスはヒーラカンスなんてのもちょっとくだらないほどの大ヨタだ。 だが、しかし、お立会い。この大嘘、大ヨタから組みあがるエピソードが実に美しく面白い。野心に燃えたひとりの魚類学者がキッコーマン醤油と静岡産の山葵を携えてコモロ諸島に向かう勇壮な姿、そして快挙をなした彼を待ち受ける悲劇、それでもくじ けず学問を追及する様…プロジェクトXもかくやの感動秘話。彼が精神病院でヒーラカンスとシーラカンスの味の対比を語る場面など涙なくして読めないはずだ。 この他にも、ナマコこそ天皇制に対する最初の反逆者であるとする「なまこ」 、生物学者の感動的な歌い方に惚れ惚れする「おたまじゃくし」と佳品名品ぞろい …やや話がそれるが「おたまじゃくし」の「字余り」の読み間違えのくだりは一見アッサリしているように見えるが、恐ろしいほどの切れ味。これがあるから別役ファンはやめられない。 最後に、「魚づくし」で最も注目すべき作品として、「ふぐ」をあげたい。
このやや控えめな嘘から始まる一文は、定番の嘘情報の羅列、嘘川柳から下ねたまでくぐり抜けてのジェットコースター。数あるづくしシリーズの中でも完成度の高い一文だ。 高密度の嘘と流麗な論理、その狭間にさりげなく潜む切れ味を是非非味わって 本が入手できたら。 |
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書籍データ 嘘 度:★★★★★ |
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